episode.10

「龍を見たおはなし」その4/接近遭遇2回目の巻

さてさて、お話は続きます。 話を小分けにするといつまでたっても終わらないので、今回は少し長くやりますからどうぞおつきあいを。

明けて9月4日 火曜日。昨夜の龍のことは不思議な幻覚ということに決め、僕はいつものように店で仕事をしていたワケです。そこへたまたま僕にさんを紹介してくれた行徳のラーメン店「葫 (にんにく)」の店主、浅田さんが現れました。

何つ~~~ありえないグッタイミン! 渡りに船とはまさにこのことです。

このひと自身はそういったものは全く見えないらしいのですが、交遊関係の広い浅田さんですから、知人の中にはスーパーナチュラルな感覚を持っている人が大勢いるらしく、その中で龍を頻繁に見るという西東京の保谷在住の女性の話も以前に聞いたことがありました。

「あっ、丁度よかったわ浅田さん。いやね、幻覚だと思うんだけどね。昨夜自宅のベランダで龍を見たんですよねぇ~」

「えっ? 龍っすか? 龍見たんスか? それって何色でした? 指って何本ありました? 3本ですか?」

「色は白です。指は5本か4本です。5本かなぁ? あ、つーかあれはきっと幻覚ですよ。幻覚」

「白龍っすか!! そうなんスよ、日本の龍って白いらしいっスよ。だけど指5本と言うのはありえないなぁ~。5本指の龍は王家の前にしか現れないらしいっスからね。3本指でしょ見たのは? 3本指?」

「いや、4本以上は間違いなくありましたよ。なにせ僕は龍に捕まえられそうになったんですから。あ、でもね、幻覚ですよ。幻覚」

そして「ちょっと待ってくださいね」と言いながら誰かに電話をかけた。電話の相手は5月に僕を鑑定してくれた、例の叶さんだ。

「叶さん、何ヶ月か前に鑑定してもらった山口さんって覚えてる? うん、その山口さんが昨夜龍を見たということで、本人は幻覚だと言ってるんだけど……うん、うん、幻覚じゃない。はいはい、じゃ本人にそのように伝えときます。はいそれじゃ~失礼します」

「幻覚じゃないそうですよ、山口さん!」

……僕はとりあえず、

「へぇ~~? そうなんスか」と、答えときました。

「山口さん、本当に指は3本じゃなかったですか? 本当に4本指でした?」

「ええ、3本じゃないのは確かです。4本か5本。僕のすぐ目の前に来たんだから間違いないです」

「うっわぁ~イイなぁ~。俺も見たいなぁ白龍さん。そっかぁ~山口さん見たのかぁ…… 。もし4本指の白龍だったら日本の龍の頂点に立つほど位の高い白龍さんですねぇ。へぇ~見たのかぁ……い~なぁ~~」

「ところで浅田さん。頼みがあるんですが、いつか、彼女のイズミちゃん連れて僕の自宅まで来てもらうのは可能ですか?」

実はこの頃、日本のビスクドール作家のために何か自分に手伝えないか? と模索していて、自分でも一体作ってみようかとも思い立ち、長らく人体部位の資料集めをしていたのです。ビスクドールとは球体関節がついてポーズを変えることができる陶器製の人形です。ヨーロッパのマイセンなんかも古くから製作していましたね。で、当時、女っ気のない僕は成熟した女性の美しさを表現したくて、その資料として浅田さんの彼女のヒジとかヒザ、腰やカカト等の詳細な写真を撮らせてもらえないかとお願いしたわけです。

「遅くても良ければ今夜でもイイっすよ! いやぁ俺、山口さんにスッポンのように喰らいついて当分放さないですよ~。なんせ白龍見た人には財が転がり込んでくるっていう話ですから」と、快く承諾し、いったん家まで戻り、夜分遅くウチに来てもらうことになった。

さて、僕は定時に仕事を終わらせ、今夜浅田さんが来てくれるということもあり、まずは部屋の掃除だ。ひと通り片付けを済ませ、ちょっと一息。いつものように自宅のベランダでタバコをふかす。昨夜と違い、今夜は星が見えないくらい雲だらけの夜空だ。

「なっ、どの雲も見ようと思えば全部龍に見えるじゃねぇか。見えるよ龍に。やっぱ昨夜のは幻覚だ」

僕はさまざまな形に変化し流れ行くいろんな形の雲を眺めながらそんな事を考えていた。と、突然また雲の中から昨夜の白くてドデカい龍が飛び出してきました!! 昨夜は妙な形の雲が変化して龍になったのだけど、今夜は厚い雲の中からドドド~ンっと現れたのです。

「え~~っ! 今夜もかよっ?!」

不意の出来事にまた僕は驚いて後ずさりしましたが、でも今夜の僕は昨夜のビビリーな僕とは違います。なぜなら目の前にいる龍は僕の脳が作り出した幻覚だからです。だから僕は自分の脳の記憶力や想像力と勝負してやろうと思いたち、この龍の細部を観察しはじめました。

「……う、う~~む、マジで生きているみたいにリアルだ。自分の想像力を遥かに超えている。あ、そうそう、指を数えなきゃ、指」

龍があまりにデカく、さらに動いているので自分の首を左右に振って目線を追いかけないと両方の指を数えられません。ひい、ふう、みい、よ……左右とも4本ずつ。4本指の白い巨大な龍。

と、やってる最中、龍はまた昨夜のように僕の側まで近づいてきました。幻覚だとは思いつつも、僕の視野に収まらないくらい巨大な白龍が僕を睨みつけながら掴みかかろうとしているのですから、そりゃ~もう、やはりビビってしょんべんチビりそうになります。するとまた昨夜のように天に大きく伸び上がり、そしてオオカミのように真っ直ぐ空に向かって吠えたあと、何かが抜けたようにスゥ~っと雲に変化し、やがて他の雲に混じって消えてゆきました。

二日続けて?

う~む、いったいどういうことなんだろうか? 俺の頭は狂ってしまったんだろうか? この龍のこと以外、自分自身の頭は正常なように思えるのだけれど、ひょっとしたら違うのか? なんてーことを考えているうち浅田さん一行が到着しました。何と叶さんも一緒です。きっと誘ってくれたんでしょう。結局、資料用写真なんて撮ってる暇もなく、もっぱら話題は二日続けて現れた龍の話になります。

浅田さんが部屋を観察しているあいだ、僕は叶さんと二人ベランダに出て詳細な状況を説明しました。

「龍は見ようと思っても見れるものではなく、その場に他の人が居たとしても山口さんだけにしか見えなかったと思いますよ。元々形のあるものではなくて例えるならエネルギーみたいな存在で、その人が最も理解できる姿として見えるようになっているんだと思います。また、人間が呼んで現れるものでもなく、龍の方からやって来ないと見ることが出来ないです。山口さんのところへ現れたのには色んな意味があるのだと思いますよ。龍に好かれてるとか、守っていることを伝えるとか、ほかの何かを伝えるとかですね」

う~む、ピンとこない。もし万がいち僕の体験が事実であるのなら、その「何か」がわからない。見当がまったくつかない。

僕は今でこそ龍が何をもたらしに現れたのかハッキリ理解しているのだけど、当時は龍が現れた意味がサッパリ理解出来ないでいた。そのとき強烈に受取ったのは「オマエは何をグズグズしているのだ。もう我々は既に始めているぞ!」ということであり、僕は龍にこっぴどく「叱られた」という感覚だった。その時はまだ幻覚だと思っていたので、あくまで「そう感じた」のであります。

今、世界や日本で起こっている様々な出来事はまだまだ序盤中の序盤の準備中ではあるけれど、何とその全てが同時に起こる一大イベントはすぐそこまで訪れています。1年、また1年という時はアっという間に過ぎ去るものであり、僕のこころは焦り、皆が一歩ずつ確実にそこへと向かって行っていることを認識するのに十分な、世界や日本で起こる日々のニュースに心を砕かれそうになります。でも何と素晴らしいことでしょうか。僕らはそれらを皆で体験し経験するため、この地球に、そして高い魂のハードルを超え特別な役割を担うことになる日本の地に生まれてきました。だから愛すべき家族や愛すべき人々と一緒に日々を全力で楽しみ、美しい日本の自然を堪能し、人々の美しい心に触れ、今起きている事やこれから起こる事の成り行きを余すことなく楽しみ参加しないともったいないのです。悔いを残すことなく魂の奥底にある本当の自分が望む道を歩くこと。それが日本に生まれ、この地球が誕生して以来の特別な時代を生きている最大の理由だと思うのです。

もう朝方の4時になり浅田さんたち一行は帰路につくことになった。さて、そろそろ寝ようかと思っていた矢先……僕はものすごく息苦しくなり、トイレで嘔吐と下痢を繰り返したあと突然倒れてしまいました(ちなみに、体調はいたって絶好調なのに下痢はその後1年半以上も毎日続きました。食中毒や病気などではありません)。

呼吸は浅く、倒れるぐらい眠いはずなのにベッドに横になっても、何とも例えようのない苦しみに寝ることさえ出来ません。

僕の人生の中で、たった一度だけ中1の春に経験したあの感覚。ホウジロという野鳥を捕るため夜中にひとり他人の墓地にザックザックと棒を立てる穴を堀り、カスミ網という捕獲用のアミを設置していた時に経験したあの苦しみ。暗闇のなか墓地の地面にぶっ倒れて動けなくなった時と似たような同じ苦しみでした。「すっ、すんませんでしたっ! あなた方が楽しみにしてる鳥のさえずりを奪うようなことはもうしません。なまんだぶ、なまんだぶ……」スっと体が軽くなり、やっと息ができるようになったという経験でした。

結局、明けて水曜日の夕方になっても這ってトイレに行くことがやっとの状態で、食事さえ取ることが出来ませんでした。食べたものは全て吐き出し、胃や腸の中は空っぽになり、抜けた水分を補うため水分補給しては嘔吐と下痢を繰り返す。今にして思えば自分の身体の中身を全部水で洗われたような感じだ。

ちょっと寝りゃ治ると思ってたけど、こりゃあ本当にヤバイぞ。

息も絶え絶えに、僕は藁をも掴む思いである女性に電話をかけ、その言葉とは裏腹に彼女へ助けを求めていました。

「あ、もしもし、パリの一件で話がしたいのだけど、今度時間があるときウチに寄ってくれないかな?」

「今度と言わず、今からでも宜しければそちらへ向かいますよ」

「ああ、それはとても助かる。是非ウチへ来て欲しい」

彼女とはひょんな縁で出会い、初めて出会ったその日の夜に、フラッシュのごとく僕の遥か昔の記憶の一つを蘇らせてくれた特別な女性でした。僕はアメリカ先住民の部族のリーダーであり、戦士であり、シャーマンであり、そしてその女性は僕の家族であり、僕を尊敬し慕ってくれている少年でした。そして何と! その女性が一緒にヨガを習っていた友人がビスクドールを製作している作家であり、その友人は僕がドール作りの参考としていた作家、吉田良さんが主催する教室の生徒でもありました。

もうこの頃は毎日が不思議な偶然の連発です。彼女と2度目に会った時には僕の全てを打ち明け、そして僕の替わりに単身パリへ渡りモンマルトルでドール専門のギャラリエを立ち上げてくれないかと相談し、彼女はそれを快く承諾してくれていました。

「私の探し求めていた人とやっと出会うことができました」と。

その思いは僕も同じで、僕はもう30年以上も人を捜していました。自分の分身のような人、こんな僕のことを理解し死ぬまで支えてくれる人。やっと出会えたという思いは僕の方こそ強かったのかもしれません。

もちろんダチっこMMSマサキの店、リンダ・ガレージのフィギュアもそのギャラリエで扱う予定にしていました。というか、そもそもドールを扱うパリのギャラリエの発想はマサキがフィギュア店をやっていたことが発端で、「クローズ」に登場する「リンダマン(林田)」はマサキの名字からとったもので、販売元との提携もあって始めたお店でした。自分としてはその店の援護射撃的な意味が多分にあったのです。

彼女は早稲田からタクシーを飛ばし15分ほどで僕の家に到着し、床に倒れ込んでいる僕を見るなり「いったいどうしたの!」と驚き、まず呼吸を整えさせてから僕の背中をさすり始めます。彼女が僕の体をさするたび、みるみる症状が回復して行くのが分かりました。板橋にはゴッドハンドと呼ばれる先生がいて、その方は仙骨という骨盤にある脊髄を正常な位置に戻し、手で体を触ることにより病気を治す人として知られていて、彼女はその先生のところへ通っている生徒でもあったのです。

背中を始めいろいろな部位をさするのには身体中に走っているリンパの流れをスムーズにさせる効果があり、正しい食事や呼吸、仙骨修正によって自己免疫力を高め薬に頼らず自らの免疫力によって恒久的に病を治すという手法です。元来「手当て」という言葉は「身体を手でさする」ということからきているのではないのでしょうか? 仙骨の位置も期間をおきながらゆっくりと修正するので、整体のボキボキッとやるものとは根本的に違うものです。

彼女の3日間に及ぶ献身的な治療により、僕の容態はみるみる回復していきました。金曜日の夜中(土曜日の午前3時頃)、容態はすっかり回復し、感謝の念でいっぱいの僕は自然と彼女を抱きしめていました。と、その時です。何と僕の胸からヘソまでの一帯から何かがドドドドド~~~っと勢い良く飛び出してきました。

それは勢いのある滝の流れのようでもあり、ダイヤモンドダストのようにキラキラと虹色に輝く光の洪水のようでもあり、それは愛の本質のようなものでありました。その美しさは何かに例えようもありませんでした。すると僕の魂は激しく振動を始め、嬉しさで涙が滝のように溢れ出し止まりません。その瞬間、僕は全てを思い出しました。この人とこの瞬間、この年齢で出会うことは二人が生まれてくる前からの固い固い約束であり、この出会いのタイミングは遠い昔に既に決まっていたことでありました。 出会ってから約3ヶ月、7~8回ほどしか会っていないというのに、こんなドラマチックなことが本当にあるのでしょうか?

「結婚しよう」

「私は初めてお会いしたあの日からずっとお待ち申し上げておりました」

僕の心の中で、大きな歯車と小さな歯車がガチャンっと連結し、ギギギギギ~と動き始めるイメージがわき上がってきました。ベランダで明け行く東京の空を二人とも無言で見つめながらタバコを吸いました。不思議なことにその空には僕の見たこともない景色。緑に囲まれた森から突き出したモニュメント・バレーのような赤茶けた岩山と、その麓の少し開けた大地に集落が見えます。大地の横には滔々とゆるやかに流れる川。明け方のスペクトルが作り出した偶然なのでしょうか? なぜ空にこんな写真のような景色が現れるのか不思議でしたが、僕は30分ほど無言でその景色を眺めていました。彼女にそのことを告げると、彼女もずっと全く同じ景色を観ているようです。

「あなたと出会ってから私の周りは毎日が不思議なことだらけだったから、空にこんな景色が現れても今さら不思議でも何でもないの」

さて、今日は3日ぶりに店に出勤し、仕事へ復帰しなければ。9月8日土曜日の朝、彼女は早稲田の自宅へと戻り、僕は久々の仕事へ向いました。仕事は病み上がりということもあって19時ごろには終わらせ自宅へ戻ったわけですが、タバコを吸おうとベランダへ出ると、またしても不思議な姿をしたものが僕を待ち受けていたのであります。

この数日間、自分が体験した不思議な出来事。このあとに待っていた自分にとってはそれが幻覚などではなかったいう根拠となる不思議な体験。またしても僕の想像力など遥かに飛び越えてしまうような不思議なものが、またしても悠然と僕の目の前に姿を現すのでありましたとさ。

う~む、いったい何ざんしょ?

つづく

 

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CHOP STICK CHOPPERS
住所■東京都豊島区西巣鴨2-22-8-1F
電話■03-3910-8065
休日■木曜日
URL■www.zerochop.com

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チョップスティックチョッパーズ

山口和俊 Kazu Yamaguchi

東京の下町、西巣鴨に居を構えるチョッパー屋の主、カズヤマグチ。愛車は30年来の付き合いになる1941ELナックルヘッド。店名のCHOP STICKという名前の由来は日本人に馴染みの深い「箸」から取ったものだ。

 

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