EPISODE.259 未だ見ぬ世界/急

朝霧の合間から現れたのは息を呑むほど雄大な阿蘇の全景だった

──東京阿蘇1300km

東京から阿蘇を目指し、ひた走るHBJ43号(1999年7月発売)巻頭企画、東京阿蘇1300km。話しはいよいよ佳境に入るわけだが、今回もその原稿を引用させていただきたい。

小さなカセットデッキの中で8回目の演奏を終えたhitomiの声にも張りがなくなったころ、関門海峡が近づいてきた。本州最西端、壇ノ浦サービスエリアで長かった本州に別れを告げる。時刻は午前4時30分を少しまわったところだ。辺りはちょうどうっすらと白みはじめ、すべてのモノは本来あるべきカタチを取り戻しつつある。まるで世界は、今さっき出来上がったばかりのような絶対的な美しさに溢れている。弱くて、繊細で、壊れやすいこの生まれたての世界は、否応なしにぼくのすべてを差し出せと耳元で囁きかけてくるかのようだ。

わずか2kmほどの関門橋を渡り九州上陸を果たすと、呪いが解けてすっかり元通りになったぼくの五感を唐突にある違和感が襲ってきた。まるでジャケットの下でシャツの袖がまくれ上がっているかのような、そんな違和感だ。空気の質が明らかに本州とは違う。濃度が高いとでもいえばいいのだろうか? 頬をかすめ襟元、袖口から入り込む風が、ここは九州だと主張している。山の緑もまた九州を主張する。辺りを埋め尽くさんとする緑は節くれ立ち力強く、本州のそれよりも貪欲な生命力を誇示している。自分の領域を少しでも広げようと辺りを浸食していくチャンスをうかがっているかのような貪欲さ。なるほど、これが九州なんだ。

北九州、福岡、久留米と活字上でのみ見慣れたいくつもの都市を通り過ぎる。辺りの長閑な田園風景が朝日を浴びて採れたてのみずみずしいトマトのように輝いている。熊本までは38km。見飽きた無機質な標識が、今は花柄模様に見える。17時間以上走り続けた高速をあとにし、早朝人気のない街中を抜けていよいよ阿蘇の懐へ。朝霧に包まれたワインディングをゆったりと進む。なんとも心地いいペース。東京の編集部を出発したのが、はるか遠い昔のようにも感じるし、またついさっきの出来事のような気もする。

山頂を目指して上っていくと、辺りに立ちこめていた朝霧はぼくを待ちわびていたかのようにさっと眼下に退き、その合間から現れたのは息を呑むほど雄大な阿蘇の全景だった。はじめて見る阿蘇の絶景に心を奪われ、とっさにFLを停めてしばし呆然。

──とうとう阿蘇に着いたんだ。

総走行距離1280km、走行時間18時間42分というぼくのささやかな冒険は今、終わりを告げようとしている。心と身体をいつもオープンにして耳を澄ますと、いつだって世界はぼくに語りかけてくれる。そうFLは教えてくれた。ほんの少しだけハーレーダビッドソンに近づけたような、そんな気がした。

オイル滲みひとつないピカピカのエンジンをぼんやりと眺めてみる。この壮大な阿蘇の中にあっても、微塵も引けを取らない孤高なままでのFLの姿。地球上どこへ行ったってFLは何者にも媚びることなどないんだろう。FLは圧倒的に強い。揺るぎないこの事実が今ゆっくりと僕の中に沁み渡っていく。九州特有の濃密な風は、高速道路で吹かれ続けた1300km分の風と同じく力みなぎり、それでいてどこか甘い。

──ハーレーは僕にいろいろなことを教えてくれる。

ここで大切な話しがあります。2011年5月に立ち上げたこのHOTBIKE JAPAN.comですが、6月よりバイクブロスが運営するハーレーWEBサイトVIRGIN HARLEY.comと統合することになりました。実はそのVIRGIN HARLEY.comもここ2年ほどはぼくが担当してきたのですが、バイクブロスが手掛けるハーレー関連のWEBサイトはこれにより一本化されることになります。

HOTBIKE JAPAN.comのユーザーに比べ、7倍以上のユーザーを持つ巨大なVIRGIN HARLEY.comとの統合は決してネガティブなものではなくむしろその逆で、より多くの方々にこの5年以上に及んで積み上げてきたHOTBIKE JAPAN.comのコンテンツを見てもらえるということは、とても喜ばしいことだと思っています。

雑誌HOTBIKE JAPANから、WEBサイトHOTBIKE JAPAN.comを立ち上げ、20年近くこのタイトルに携わる仕事を中心に暮らしてきたわけですが、今後はVIRGIN HARLEY.comでの仕事が大きな割り合いを占めることになります。HOTBIKE JAPANをきっかけに巡り会えた方々には感謝の気持ちでいっぱいです。そのすべてはぼくの掛け替えのない財産であり、宝物となっています。本当にありがとうございました。もちろんこれで終わりではなく、また違う形で関わっていければと思っていますので、その時はよろしくお願いします。

連載259回目というなんとも中途半端なところで、しかもパンヘッドは未完成という道半ばの状態でどうにも心残りなのですが、この「1000の主張」も今回で終了させていただきたいと思います。

またいつかお会いできることを願って。

ここで一句。
「いざ走れ 愛機とともに 強くあれ」


ホットバイクジャパン.com編集部

成田恒一 Kouichi Narita

京都生まれの京都育ち、生粋の京都人という妙なプライドがチャームポイント。HBJ編集部員になり13年目(途中ブランクあり)にしてHBJ.comを立ち上げる。東京に来て25年以上たつも、未だ京都弁が抜けない。趣味は物欲。趣味を超えてその物欲で生きていると言えなくもない、もはやライフワーク。ちなみに特技も物欲である。そして2005年、勢い余って67年式カマロを購入。目下のターゲットはD5。