episode 71 風に吹かれて #04

すべては仕組まれていたということか?
悪夢の3月8日前日の警告めいたサイン

風に吹かれて考えた。

 

僕がハーレーダビッドソンに乗る意味を……。

 

──事故前日の夜、気になることがあった。

 

編集部からの帰り道、時間はたしか夜10時くらいだったと思う。幹線道路をパンヘッドで気持ちよく走っていると、測道からパトカーが合流してきた。少し嫌な予感がしたので、別にやましいことがあるわけではないが、いつもより気を使って慎重な運転をこころがけた。ほどなく赤信号で停車。僕は信号の1番前、パトカーはおそらく僕の4?5台うしろに停車したと思う。青信号になって走り出すとパトカーのサイレンが鳴り響いた。

 

だれか黄色線でも跨いだか?

 

これでパトカーとお別れすることができると思ったら、「前のオートバイの運転手さん、ゆっくりと左に寄って停車して下さい」とパトカーから聞こえた。

 

えっ!? 俺か?

 

回りにはバイクは一台も走っていない。間違いなく僕だ。さらにパトカーから無機質な声が届く。「ゆっくりでいいですからね、ゆっくり左車線に寄せて下さい」。まったく身に覚えのない停車命令に、少しイラ立ちながら僕はパンヘッドを路肩に停車させた。エンジンはかけたままだ。すぐ後ろに停車したパトカーから二人の警官が降りてきた。ひとりは強面のベテラン巡査長、もうひとりはひょろりと背が高い若手の研究員といった感じの風貌だった。僕はベテラン巡査長を角刈り(もちろん警察帽を被っていたので見えなかったが、カクガリだったに違いない)、ひょろりと長身の研究員を綿棒と呼ぶことにした。

 

「エンジンとめて」

角刈りが高圧的にそう言った。僕はバイクに跨がったまま、しぶしぶイグニッションオフ。腕組みをして相手の出方を待つ。角刈りが続ける。

「ナンバーが後ろから見えないんですよ。これは違反になりますね。免許証を見せて下さい」

「えっ、ナンバーが見えない? 20年以上バイクに乗っていますが、ナンバーが見えないと警察に止められたのははじめてです。これで車検も通ってるし、なにもやましいことはありません。なにかの嫌がらせですか!」

あまりの唐突な指摘に、少し声のトーンが上がったものの自らの正当性を主張。免許証を綿棒に渡すと彼はパトカーに戻ってなにやらカチャカチャと調べはじめた。

 

「嫌がらせ? とんでもない! 後方20メートルから確認できないと違反になります。これは立派な取り締まりです!」。角刈りも語尾を強める。

「文句があるなら陸運局に言って下さい。こんなところで停まっていたら危ないですよ。パトカー、もっと路肩に寄せた方がいいんじゃないですか。これで後ろから車に追突されたら、誰が責任取ってくれるんですか!」

「停車しなけりゃ、話しを聞けないでしょ!」

「窓開けて走りながらでも話せるでしょ!」

「それこそ危ないだろ!」

「ここに停まってるのも危ないやろ!」

 

そんな調子でお互いにヒートアップしていると、物珍しそうにギャラリーが集まってきた。すると角刈りがギャラリーに向かって一喝。

 

「何かご用ですか!」

 

クモの子を散らすようにギャラリーは退散していった。ほどなく綿棒が調べものを終えて戻ってきた。僕の違反歴かなにかを調べていたんだろう。「いますぐキップを切るわけではありませんが、ナンバーの角度は一度見直して下さい。今後も取り締まりの対象になる可能性がありますので。ところでこのバイクの排気量は?」。

「1200です」と僕。

「そんなにあるんですか、外車ですか?」

「ハーレーです。もう行っていいですか?」

「結構です」と綿棒。

 

エンジンを掛け、走り出そうとしたときに冷静さを取り戻した角刈りが僕に向かって最後に言った。

 

「事故には気を付けてくださいね……」

 

ここで一句。

「あなたには、いったい何が 見えてたの?」

少し字足らず。